クラウス・フォアマン…ビートルズ「Revolver」のジャケットデザインやジョン・レノンのソロアルバムでのベーシストとしての仕事は知っていたけれど,こういう人物だったのかと初めて理解する。
音楽と絵画の間で揺れ続けながら着実に業績を残していったドイツ人アーティストの半生が描かれる。
数々のモノクロームの絵が美しい。華やかな業界とは対照的なクラウス・フォアマンの謙虚さそのもの。仕事としてのグラフィック・デザインに言及するシーンがあって,半端なアーティスト指向とは無縁のドイツ職人気質みたいなものが覗く。そこがとてもよい。
音楽面でびっくりする場面も出てくる。何十年ぶりかで会うカーリー・サイモンが「うつろな愛」の冒頭のベースのフレーズをベロベロベロと口まねしてその当時のことを語る(プロデューサーのリチャード・ペリーも同じようにベロベロベロとやるのがおかしい)。そして,その次の画面で,クラウス・フォアマンがベースでそれを弾くところのアップ。あの印象的なイントロが彼だと今初めて知る。さりげないけれど,このドキュメンタリーの中で最高に感動的な一瞬。
90年代のビートルズ・アンソロジーのジャケットデザインも彼だったけれど,ああいうカラフルなものよりモノクロ作品の方がよさが出るというのが,どこまでいっても控えめなクラウス・フォアマンの本質か。
才能に恵まれた「サイドマン」の光が全編に感じられて,見終わった後もしみじみ。