水木しげるの作品をほとんど知らないまま何となく見る。
あばら屋のような仕事場で始まった極貧の新婚生活,いい仕事をするにつれて家の中が灰色からカラフルになっていく様子がおもしろい。高度成長期の日本をほんのりにおわせる。
同じような職種ということもあってワタシ自身を重ね合わせて見るところが多い。それもなぜかフリーになったばかりの若かった頃ではなく,ここ5〜6年の仕事をめぐるあれこれ。サイトを公開してウェブ経由での仕事の割合がどんどん大きくなり,やっと自分の足で立っていると感じられるようになった現在まで。少しずつ階段を上がっていく感覚が似ていると,いつも思いながら見ていた(それ以前の長い助走期間は思い出したくないなー)。
ドラマは派手な展開もなく淡々と進み,不思議な味わいを残して予定通り最終回を迎えたという感じ。
そんな中,ひとつだけ強烈な印象で何日も頭から離れなかった場面がある。水木しげるの父修平の最期。幻の映画館で,自分の一生を描いた映画を見て,上映を夢見ながら脚本執筆中だった映画がやっと始まるところで突然終了を告げられる。そこで落ち着いた口調で「もう終りか。おもしろかったなー」とつぶやく。粋な趣味人の最後の言葉としてはこれ以上のものはない。そんな風に幕を引けたらとsentimentalismを刺激されて泣けてくる。
このドラマの好評を受けて水木しげる自身もTVに引っ張りだされていて,こんな人だったのかと初めて知る。ドラマでは何も驚かなかったけれど,ほんの十数分見ただけの本人の言動は静かにぶっとんでいて,へたするとドラマ全巻よりずっとおもしろいのでは…。