2009年7月12日

逢坂剛「百舌の叫ぶ夜」を読む

暗殺の思いがけない展開で幕を開け,それに続く断片的な謎めいた挿話。記憶喪失の男として読者の前に現れた主人公と個性的な登場人物たち(みんな異様に濃い)が物語をダイナミックに引っ張って行く。

個人的には,記憶喪失の周辺の,古いフランスミステリにあったような軽みのある味わいが好きで,実際後半では見事な大技を決めてくれる(ウヘーとうなる)のだけれど,作者の力点はそことは違っているのがビミョーなところ。

ラストでこれでもかとばかりにたたみかけられる事件の核心のエネルギーには圧倒されるものの,情念や組織の話になると何だか…。途中でやめられなくなるくらいおもしろいので,傑作は傑作。

これはあくまでもドロドロしたものが苦手というワタシの好みの問題。

この一冊で完結はしているけれど続編「幻の翼」以下全五冊のシリーズになっている。この水準が持続するのならやっぱり最後まで読むべきか…。