課長さんを主人公にした短編集というのも珍しいけれど,そういう素材で「巻を措く能わず」のおもしろさなので参ってしまう。
表題作の「マドンナ」のこそばゆい感触。感想を書くのも照れるというか…ワタシは部下なんて持ったことないけど,主人公の気持がわかりすぎて困る。すべてお見通しの奥さんも偉いなーと,ひれ伏す(…って,誰に?)。課にやって来て男二人を振り回し続けたマドンナが最後に意外な反応を見せる場面の鮮やかさはちょっと忘れられない。
どの作品も甲乙つけがたい中,一番好きなのは「ボス」。新任の部長として突然抜擢されて来たのは女性,美人の部類で切れ者。にこやかに欧米風合理主義で部内を改革していく姿は,ワタシにはとてもかっこよく見える。こんな上司の下で働きたいと思うほどだけど,当然ニッポンの課長さんたちとは相容れないわけで…。
しっぽを握られそうなところはなさそうなボスなのだけれど,読んでいるうち何かがひっかかる。読者のそんな期待に対して作者が用意した結末がまた見事。これ見よがしなわざとらしいオチではなく,暖かいまなざしで描かれる最後の場面にちょっと泣けてくる。かわいい短編。