2011年3月5日

ドラマ「てっぱん」を見る

このドラマにおいてはなぜかこの人。何といっても柏原収史。

大阪と尾道の言葉がとびかう中,ひとりだけさらりと標準語を話す。それはいいとして,その台詞がいつもいつもつまらない。はじめは何となく浮いているだけかと思っていたけれど,見続けるうち,静かなギャグ(?)なのだとわかってくる。面白くも何ともない存在であることがギャグという,朝ドラではたぶん前代未聞の登場人物。

演出がまた「これ,面白いでしょ」などと押し付けがましい見せ方をせず, 知らぬ顔で普通に撮るものだから,その趣向に気づかない人もけっこういるのではと,よけいな心配をしたりする。

12月の放送では,クリスマスコンサートの場面でおもちゃの赤い丸い鼻をつけて指揮棒を降る姿がおかしかった(あまりに自然,よく見るとどうも変)。

年が明けてからは,ドラマ全体がまともな方向へ走って,ちょっと不満だったけれど,昨日久しぶりにクリーンヒットともいうべき場面が出てきた。冒頭,小型ビデオカメラで撮られる柏原収史の正面アップ。一言つぶやいた言葉は「ヴィデオレター?」。上の歯で下唇をしっかりかんで中学生みたいな「v」の発音。演出はそれを強調するでもなくただ淡々と話を進める。

何という奥ゆかしさ。っていうか,ほんの一瞬,そんなどうでもいい個所に凝ってどうするんだ…。最高。好きにならずにいられない。このセンスを見るためにこのドラマを見ているようなもの。

延長線上には,何があっても不機嫌な顔の陸上選手滝沢(長田成哉)というのもある。イケメンとのギャップがおかしい。

それから尾道の和尚の役の尾美としのり。ノリノリで演じていてそれが伝わってくるので見る方も楽しい。

ともさかりえが変な大阪弁(いわゆる飯がまずくなる大阪弁)をしゃべりまくるが,これは「へたな大阪弁をしゃべりたがる地方出身者」という設定。気がきいてる。

全体を見渡すと,古めかしい話に良くも悪くも完全無欠の朝ドラヒロイン。そんな状況でこんなに楽しいものができてしまうのは,やっぱり才能かな,それとも制作現場に気まぐれな神様がひょこっと現れたのかな…物語は佳境に入ってヒロインの恋で盛り上がりつつあるけれど,それとは全然違うところに注目して感激しているワタシのような人間もいるのだと,しっかり書きとめておく。